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ナチュラルフレーバー素材の複雑な規制状況

Michael Sabisch, David Smith

はじめに

食品や飲料の原材料が「ナチュラル/天然」であると表示されているのを見たときに、皆さんはどんなことを思い浮かべますか?おそらく、「天然の原材料は自然由来である」という考えをお持ちでしょう。しかし、非常に多くの新たな技術が利用されるようになるにつれて、原材料の製造方法は従来よりも多面的になっています。このため、原材料をナチュラルであると表示することが認められるかどうかを決める境界線が曖昧になり始めています。このような複雑さに加えて、ナチュラル原材料の定義は国ごとに異なっており、フレーバー業界では、素材を食品への使用に適したものとして分類することができるさまざまなカテゴリーが採用されています(図1)。 

これらのカテゴリーは、何がナチュラル素材で、何が合成素材であるのかという定義の境界を越えているため、標準化のプロセスがより一層複雑化しています。このような複雑な規制状況をうまく切り抜けることが、フレーバー業界にとってますます大きな課題になりつつあります。その解決策は、おそらく、供給業者と購入者の両者のために世界的に認められた一連の食品・飲料原材料規定を策定することにあるでしょう。

食品および飲料に使用される素材のカテゴリー

図1.フレーバー業界は、食品や飲料への使用に適した素材についてさまざまなカテゴリーを容認しています。このような複雑な状況では、合成またはナチュラルの香料素材が複数のさらなる規制上の分類に含まれることがあります。

規制の状況

消費者がナチュラル製品を求めるようになったことで、世界の食品・飲料原材料業界全体に共通する規制基準がないという問題が浮き彫りになりました。この問題は、規制機関がないことの結果ではありません。むしろ、供給業者と購入者のどちらをもさらに混乱させることになりかねない、異なったレベルの分類が規制機関ごとに設けられていることの結果です。

Food and Drug Administration(食品医薬品局)(FDA)が米国の主要規制機関であり、ヨーロッパではEuropean Food Safety Authority(欧州食品安全機関)(EFSA)です。他にも、Flavor and Extract Manufacturers Association(米国食品香料製造業者協会)(FEMA)、Food Chemical Codex(食品用公定化学品集)(FCC)、Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)(JEFCA)、Council of Europe(欧州評議会)のインデックスシステムなど、多くの業界団体や政府機関が、食品の安全・品質基準に関する規定の策定に取り組んでいます。これらの機関や団体すべてが食品や飲料の原材料の安全と品質を確保するために尽力していますが、今後は連携しながら、食品や飲料の原材料についての世界共通の規定を策定していかなければなりません。

米国とEUにおける「ナチュラル」の定義

国際機関のほとんどが、フレーバーが天然であるかどうかを判断する際に米国またはEUを参考にしています。米国とEUの規制要求事項は似ていますが、明確な違いがあります。

  • 米国 - 精油、オレオレジン、エッセンスもしくはエキス、タンパク加水分解物、留出物、または焙煎/加熱/酵素分解による生成物

  • EU - 原料物質は野菜、動物、微生物のいずれかでなければならない。伝統的な調整方法で作られていなければならない。

米国では、ある素材が香辛料や果実、エキス、オレオレジンなどの生産物に由来している場合、またはFDAが天然出発物質と認めている一群の原料に由来している場合には、その素材はナチュラルであるとみなされます。ナチュラルであると表示することが許されるフレーバーを得るために使用できるプロセスは非常にたくさんあり、たとえば、蒸留、抽出、焙煎、加熱、酵素分解、加水分解、発酵などがあります。米国における「ナチュラル」の定義で実際に重視されているのは、フレーバーがどのように天然物から得られたかであり、使用されたプロセスではありません。

EU圏内では規制がやや厳しくなっています。というのも、EFSAがプロセスの許可に関して米国よりも厳しい規制を課しているからです。EU指令1334/2008には、ナチュラル製品を製造するために使用することが許可されたプロセスのリストが記載されていますが、非常に多くのプロセスが収載されている米国のリストと比べると収載数が限られています。さらに、EUは、天然物質は自然界で見られるものと同一であり、いかなる変更も加えられていないものでなければならないと規定しています。これは、最終製品におけるキラルな分子のエナンチオマーの存在比率が自然界で見られるキラルな分子の場合とまったく同じでなければならないといった、細かい点まで定められている場合があります。たとえば、ある素材が発酵プロセスを経ることで、そのエナンチオマーの存在比率が自然界で見られる存在比率と同じでなくなるということもあり得ます。このような場合、フレーバーが米国またはEUの「ナチュラル」の定義に基づいて許容される方法で製造されても、エナンチオマーの存在比率が自然界で見られるものとは異なるため、EUでは、その素材はナチュラルだと認められないでしょう。

このような相違がラベリング要求事項にも持ち込まれます。米国では、天然素材は「ナチュラル」または「ナチュラルフレーバー」としてラベルに記載されますが、EUでは、もっと多様な表現で記載される傾向があります。EUでは、他にも、何らかの方法で処理された可能性のある高純度の単一分子である「天然香料物質」や、素材に数種類の化合物が含まれていることを示す「天然香料調製品」というような定義もあります。

バニリンの例

規制の複雑さをもっとわかりやすくするために、米国とEUの規制の違いをバニリンに当てはめてみましょう。バニリンとは、バニラの香りのもととなる分子です。このフレーバー素材はさまざまな方法で製造することができますが、その製造に用いる方法によって、ナチュラルであると表示することが認められるかどうかが決まります。

バニリンがバニラビーンズから直接抽出された場合には、米国とEUの規制当局はいずれもナチュラルと表示することを許可します。バニリン成分を分離するためにバニラ抽出物の分留が行われた場合には、米国とヨーロッパにおいて、消費者製品のラベルに「ナチュラルバニラフレーバー」と記載することができます。

また、さまざまな発酵プロセスによってバニリンを製造することもできます。フェルラ酸などの出発物質からの発酵により、コーヒー豆、リンゴやオレンジの種子、小麦ふすまなどのさまざまな天然物からバニリンを抽出することができます。フェルラ酸発酵プロセスを用いてバニリンが作られた場合も、米国とヨーロッパの両方で「ナチュラルフレーバー」と表示することができます。グアヤコールなど、別の物質からの発酵によってバニリンが製造される場合には、製品のラベル表示が異なってきます。米国では、そのプロセスが承認されていない場合には、その素材は「人工」または「合成」と表示されるのに対し、EUでは、そのような場合でも「ナチュラル」と表示することができます。

他の出発物質も化学プロセスによってバニリンに変換することができます。たとえば、リグニンにアルカリと酸化剤を加えて加熱して、合成品(または人工品)のバニリンを作ることができます。この場合、米国とヨーロッパのいずれでも、製品のラベルには「人工」または「合成」のバニリンとして記載されるでしょう。

最後に、エチルバニリンという分子があり、これは、自然界には見られず、通常は化学合成で作られます。米国では、ラベルに「人工バニラフレーバー」と記載されますが、ヨーロッパでは「バニラフレーバー」と記載されます。ヨーロッパで「ナチュラル」という表現が使われていないことは、人工フレーバーであるということを暗に伝えています。

バニラフレーバー

バニラフレーバーは、同じ種類のフレーバーをナチュラル品と合成プロセスの両方でどのように作ることができるかを示す良い例です。

標準化についての実情

フレーバーの調合などを行う業者や食品・飲料メーカーが素材調達プロセスを合理化することを促進するために、業界では、素材に関する一連の明確に定められた世界的基準が必要とされています。また、このような基準があれば、素材供給業者は、複雑でわかりにくい規制にうまく対応できるように顧客を導くことができ、その結果、顧客は自社製品の宣伝文句を裏付けるために必要な適切な素材を間違いなく調達できるようになるでしょう。

素材に関する一連の世界共通の基準があれば、供給業者は、次のような方法で、顧客の購買プロセスを簡素化し、顧客の購買体験を向上させることができるでしょう。

  • 製品の履歴に関する詳細の文書化
  • どのようなプロセスを使用して抽出したかに関する情報の提供
  • 製品が適合している規定の明確化
  • プロセスで使用されている触媒の種類の明確化
  • プロセスフロー全体のレイアウトの明確化

その上、フレーバーの製造に関する世界共通の基準があれば、供給業者の監査に関する基準が統一化され、一貫して施行されるようになるでしょう。

素材に関する一連の世界的基準の重要性がはっきりと認められていますが、現時点では、いかにして行動を起こすべきかを見極めるという段階で滞っています。業界は今、このような規制の違いに対するグローバルな解決策を生み出すために協力しなくてはならない時を迎えています。

フレーバー・フレグランス業界で世界的に信頼されている供給業者として、メルクは、規制状況の複雑さを理解し、お客様に最高の規制対応サービスをご提供できるよう尽力しています。メルクのナチュラル製品は、EUや米国で認められたナチュラル製品であることが明確に表示され、具体的にどの規制に適合しているのかを示すナチュラル製品証明書付きで供給されます。そして、すべてのナチュラル製品は、信頼できる第三者機関であるUniversity of Georgia(ジョージア大学)が実施する独立した試験により、間違いなくナチュラルであることが確認されています。改善された食品原材料規制が設けられるまでの間、リスクやサプライチェーンの複雑さを低減するために、専門知識を有する品質保証部門の専任スタッフによるサポートをお客様にご提供します。

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