デバイス/組織境界面のエンジニアリングに使用される共役ポリマー
David C, Martin, Laura K, Povlich, Kathleen E, Feldman
Material Matters 2010, Vol.5 No.3
はじめに
有用なバイオメディカル(生物医学)デバイスと生体組織との間を橋渡しする上で、電子的およびイオン的に活性な共役ポリマーの開発に大きな関心が持たれています1-6。共役ポリマーによって、電気伝導性を持つ無機金属とプロトン伝導性を持つ有機生体システムの間の電荷移動が可能となるためです。これらの材料は、蝸牛(かぎゅう)、網膜、皮膚インプラントなどの各種バイオニックデバイスだけでなく、ペースメーカーやグルコースセンサーにも役立つ可能性をもっています7。検討されている材料の候補としては、ポリピロール(Ppy)や、機能性ポリチオフェンであるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などがあり8-10、電気化学的重合法によって金属電極の表面に直接固定させることができます11-13。共役ポリマーは従来の金属ほどの導電性(電気的活性)を持っていませんが、生物学的に重要な周波数範囲(1000 Hz付近)におけるバイオメディカルデバイスの電気インピーダンスを大幅に低下することのできる、柔軟性のある高表面積膜を作製することが可能です12-14。この周波数は、神経信号の代表的なパルス幅(約1~2 ms)に相当します15。
導電性ポリマーを用いて微細加工されたバイオメディカルデバイスの例として、シリコンを基板とした皮膚電極の模式図を図1aに示します。電極の先端部分に直径約40 μmのPEDOTコーティング(青色)を行っています。図1bは、電極部位の1つにPEDOTコーティング(白色)を行った電極の実際の画像です。図1cは、デラウェア大学の筆者らの研究室で作製した、厚さ約1 μmの電気化学的にPEDOTコーティングをした試料の断面SEM画像です。

図1(a)導電性ポリマーをコーティングした領域(青色)が集積化された超微細バイオメディカルデバイスの模式図。より具体的なデバイスの例は「www.neuronexus.com」で確認できます。(b)電極の複数の部分にPEDOTコーティング(青色)を行ったバイオメディカル電極の実際の画像。(c)筆者らの研究室で作製したバイオメディカルデバイスの断面SEM画像。金属電極を覆う厚さ約1 μmのPEDOT層を示しています。このSEM画像は、オレゴン州ヒルズボロのFEI社研究所(www.fei.com)で、Helios NanoLab収束イオンビーム(FIB)装置を用いて得られたものです。
PEDOTは、PPyと比較して化学的にはるかに安定であることが明らかですが、おそらく、後者の安定性が劣るのはジエトキシ置換基が過剰の水素原子を置き換える結果、PPy中に合成欠陥が生じるためであると考えられます16,17。また、ペンダント型PEDOT酸素原子の電子供与性によって、分子の導電性も改善されます。このPEDOTとほとんどの動植物が合成する天然の黒色着色分子であるメラニン(図2)との間の顕著な化学的類似性が注目されています。

図2(a)共役主鎖により紫外光を吸収する天然の共役ポリマー色素であるメラニンの繰り返し単位。(b)合成PEDOTポリマーの化学構造。メラニンとの類似性を赤色と緑色で強調してあります。
バイオメディカルデバイスに用いるためにPEDOTなどの化合物の性能をさらに改善するには、2つの重要な境界面、すなわち、(1)固体金属基板と共役ポリマーとの間の結合、(2)共役ポリマーと生体組織との間の結合、にも注目する必要があります。いずれの場合も、2つの異なる材料間において接着性に優れた化合物が有用であると考えられます。ここでは、これら材料の境界面の性質について検討し、この2つの境界面において非常に重要な官能基化共重合体の作製に使用される、いくつかのモノマーについて説明します。
金属-ポリマー境界面
共役ポリマーと金属との境界面の機械的強度と信頼性は、バイオメディカルデバイスの設計において特に重要です。金属へのポリマーの接着性は、金属の表面処理、ポリマーの固定化方法、およびその反応中に用いる対イオンによって左右されます18,19。ポリマーコーティングを基板に可能な限り強く結合させるために、ポリマーと金属表面との相互作用が強化されうる分子設計に注目が集まっています。このような化学設計によって、金属とポリマー、さらに最終的には周囲の電解質との間での効率的な電荷移動を維持することが重要となります。バイオメディカルデバイスに使用される代表的な金属には、金、白金-イリジウム合金、ステンレススチールなどがあります。金属が用いられるのは、耐腐食性とin vivo での安定性のためです。ポリマーと金属の接着性を改善する1つの方法は、対象となる金属表面と特異的に結合するように設計されたペンダント基を持つ官能基化共役モノマーの合成です20。たとえば、チオールもしくは酸で官能基化されたモノマー(図3)を使用してチオフェンが共有結合した薄膜を作製した後、この膜を利用して導電性ポリマー膜の厚い層を得ることができます。官能基化モノマーは、金属-ポリマー境界面において接着促進剤として選択的に使用することもできるため、デバイス設計に必要な材料の総量を削減することができます。

図3(a)EDOT(483028)の化学構造、およびポリマーと金属境界面における接着促進に利用可能な2つのモノマーの化学構造。(b)EDOT-Acid。(c)EDOT-Thiol。
ポリマー-組織境界面
電気化学的にも重合可能な、ピロールやチオフェンの官能基化モノマーを化学設計によって合成することができます21。水の表面ぬれ角(40~80°)が精密に制御された、さまざまな組成の修飾PEDOT薄膜が、アルコール、酸、およびアミン官能基を持つEDOTモノマーを使用して作製されています22。我々は、幅広いバイオ機能を持つことが期待されるEDOTカルボン酸誘導体を見出しましたが、この化合物を実用的な量にスケールアップして合成するのはやや難しいことが明らかになっています20,23。そこで、よりプロセス加工性の高い方法として、図4にアジド-アルキン付加環化、すなわち「クリック」反応が可能なアルキン基をペンダント基に使用した合成法を示します24-26。

図4「クリック」ケミストリーを利用して、より官能基化されたアルキン置換ProDOTモノマーの化学構造。枠内は、RGDで官能基化されたProDOTモノマーを示しています。
共役ポリマーと組織との境界面において、細胞や細胞外マトリックスと特異的な相互作用の可能な、官能基化チオフェンモノマーの利用も考えられます。たとえば、細胞上の受容体に強く結合することが知られているペプチド配列など、生物学的に活性なペンダント基を用いてチオフェンを機能化できる可能性があります(図4)。その例には、広く研究されているフィブロネクチンのRGDペプチド配列や、ラミニンの(Ile-Lys-Val-Ala-Val)IKVAV配列、Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)配列があります27-29。
天然メラニンに類似した構造の化合物にも注目が集まっています。我々が最近検討した1つの例は5,6-dimethoxyindole-2-carboxylic acid(DMICA)で、これは、PEDOTと似た方法で容易に固定化することのできるメラニンのメトキシ誘導体です30。得られるポリマーであるPDMICAは、結晶質で天然メラニンには見られないオリーブグリーン色を呈します。さらに、エレクトロクロミック特性も持つため、電圧に応じて、緑色、紫色、透明へと変化します。
今後の可能性
官能基化チオフェンモノマーを用いることで、意図した構造と性質を持つ新規共役ポリマーを溶液重合によって合成できる可能性も持っています。たとえば、繊維やセンサーとして使用できる完全に可溶性の共役ポリマーの作製があります。溶液紡糸またはエレクトロスピニングによってこれらの材料の配向性集合体を作製できれば、応用に用いた際の特性を把握し、最適化することができるようになると考えられます。
謝辞
David C. Martinは、Biotectix社の共同創立者兼最高技術責任者です。同社(biotectix.com)はミシガン大学のスピンオフ企業で、各種生物医学装置と生体組織との界面に用いられる共役ポリマー材料について積極的に研究を行っています。図1cに示したPEDOT膜は、Bong Sup Shim博士によって作製されたものです。本研究の一部は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)、米国国立科学財団(National Science Foundation)、および米国陸軍研究所(Army Research Office)のMURIイニシアチブ「Biointegrating Structural and Neural Prosthetic Materials(W911NF-06-1-0218)」の支援を受けて行われました。
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参考文献
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