有機単結晶半導体
Marcos A., Reyes-Martinez, Alejandro L. Briseno
Polymer Science and Engineering Department University of Massachusetts, Amherst, MA.
有機単結晶半導体の多面的応用
過去50年以上の間、有機単結晶は半導体材料固有の電荷移動特性を決定するために用いられてきました。最近では、これらの材料を最新技術と関連の深い分野へ応用しようとする研究が広まっており、たとえば、有機エレクトロニクスやエネルギー・ハーベスティング(energy harvesting、環境発電)の分野などへの新たな利用があります。ここでは、シグマアルドリッチから入手可能な有機材料を用いた代表的な応用例をご紹介します。
励起子の研究
励起子の研究は太陽電池の性能を向上させるための基本的メカニズムを理解するために非常に重要であり、1つのベンチマーク材料として、高い規則性を持つ半導体であるルブレン(551112)が用いられています。ルブレンは有機物では最高の20 cm2/Vsもの電荷キャリア移動度を有する有機化合物であり1、その独特な特性を明らかにするために、電子特性および移動特性に関する研究が進められています。Podzorovらは有機半導体の基本的光学特性の研究にルブレンをモデルとして使用しています2。彼らは界面電荷力学やトラップに関する重要な情報を見出し、さらに、ルブレンを用いて励起子ダイナミクスを解明し、高純度分子結晶の一重項‐三重項および三重項‐一重項変換プロセス(分裂および融合)ならびに長距離の励起子拡散(3~8 µm)が、有機物の光起電性や光導電性にとって重要な支配的プロセスである可能性を示しました2。
一次元ナノ構造
p-n接合は電子デバイスの中で最も基本的な構成要素であり、有機半導体におけるオプトエレクトロニクス効果を解明できる極めて高い可能性を持っています。Brisenoらによる一次元p-n接合の最近の研究では、図1に示すように銅フタロシアニン(CuPc、p型、702854)の単結晶ナノリボン上に銅ヘキサデカフルオロフタロシアニン(F16CuPc、n型、446653)を選択的に結晶化させることで、有機半導体の単結晶p-n接合ナノリボンが作製されています。有機デバイス中の界面での電荷分離あるいは電荷移動については、まだ一部しか解明されていません。この種の材料が次世代の全有機太陽電池の実現にある役割を果たすには、変換効率を向上させるための有機/有機界面の基礎的な理解を深めなくてはなりません。良く知られているように、電気的特性はナノ構造のサイズ、均一性、結晶度、相分離、界面相互作用、移動度、トラップ密度、その他の多くの因子に依存します。巨視的なデバイス(つまりヘテロ接合デバイス)の場合、これらのパラメータは活性面上で大きく変化するため、性能の変化をある特定の現象に起因すると考えるのは困難です。単一ナノワイヤp-nデバイスでは、上記特性のより精密な制御とキャラクタリゼーションが可能であることから、データの解釈における不確実性を大幅に減少させることができます。我々の研究グループが、個別のp-nナノ構造を用いて光電流応答を探ることに関心を持っているのはこのためであり、ここで述べたような系によって、有機/有機界面における電荷移動や光起電特性の完全な理解に一歩近づくことができました3。

図1(a)p-n接合太陽電池の概念図。接合部分で正孔と電子が分離、輸送されます。(b)理想的な光電流を示す電流‐電圧特性。(c)CuPc-F16CuPcナノリボン太陽電池の電子顕微鏡写真。©2010 American Chemical Society
その他の有機一次元ナノ構造も、電子デバイスに効果的に用いられています。たとえば、ペリレンテトラカルボキシルジイミド化合物(PTCDI)は、自己組織化によって溶液から一次元ナノ構造を形成することが知られています(図2)4。Brisenoらは、相補型デバイスに一次元有機半導体を使用しました。PTCDI ナノワイヤのネットワークに基づいたデバイスにおいて、電子移動度が約10-2cm2/Vs、電流オン/オフ比が10 4cm2/Vsという値が得られ、n型PTCDIナノワイヤトランジスタとp型ヘキサチアペンタセン(HTP)ナノワイヤOFET(有機電界効果トランジスタ)を用いた相補型インバータでは8というゲインを達成しました。

図2(a) 界面自己組織化によってPTCDIナノワイヤ(NW)が生成していく過程を表した一連の光学写真。最後のフレームは500 mLのフラスコPTCDI-C8(663913)ナノワイヤを大量に合成した際の写真で、合成時間は約25分です。(b) メタノール分散液から金電極にドロップキャストして得られたPTCDI-C8 NWネットワークの着色SEM画像。©2007 American Chemical Society.
大面積エレクトロニクスへの応用
有機単結晶を広い面積にパターン化できることが明らかになっており(図3)、有機単結晶を基礎研究の領域を超えて実用途に応用できる可能性が高まっています5。

図3結晶性半導体のナノパターニング。(a) マイクロコンタクト印刷によりパターン化した基板上への有機単結晶の堆積の手順。結晶を成長させるために、パターン化した基板を原料となる有機化合物とともにガラス管に封入し、温度傾斜炉に置きます。(b, c) ペンタセン(698423)およびルブレン(551112)の単結晶配列の電子顕微鏡写真。
有機単結晶を機械的に曲げることの出来るデバイスに効果的に堆積させるには、材料の基礎的な機械特性だけでなく、その電子的特性や移動特性に機械的歪みがどのような影響を与えるかを理解する必要があります。我々の研究室では、この未開拓の分野の研究を現在行っています。
今後の見通しとまとめ
有機単結晶半導体は、有機エレクトロニクスの分野で最も盛んに研究されているテーマの1つです6。この分野では、工学、化学、物理学の基本原理が組み合わさったユニークな研究が行われています。これまでは、単結晶トランジスタ研究は有機半導体固有の物性や電荷移動に関する基本的な課題に焦点が当てられてきました。原理的には、フレキシブル基板上に微細加工された回路を作製することができれば、この新たな分野によってフレキシブルエレクトロニクス技術が実現可能なものとなる可能性があります。
有機単結晶トランジスタを実用的な半導体技術に育てるには、解決すべき課題がまだ山積しています。基本特性やデバイス構造に焦点を当てていくことが重要であり、また、超薄膜単結晶に関する曲げた際の性質や伸縮性の研究も、もう1つの研究課題です7。特に、ルブレンのような高移動度を持つ材料は異方性を示すため、単結晶のパターン化、結晶サイズおよび方位の制御には今後さらに注意を払う必要があります。同一のデバイス構造上へのp型およびn型両方の有機半導体単結晶のパターン化は究極の課題です。また、電子とホールの両方が移動可能な両極性有機半導体を用いる方法もあります。最後に、バルクスケールの量を液相から合成できるにもかかわらず8、有機半導体ナノワイヤにはパターン化が必要であり、この点が解決できなければほとんど用途はありません。以上の問題点がうまく解決できれば、ここで紹介したいくつかのアプローチによって、実際に応用できる高性能でフレキシブルな有機電界効果トランジスタの実現に向けた大きな前進になると我々は期待しています。
謝辞
Alfred J. Crosby教授およびEnergy Frontier Research Center(EFRC)の支援(米国エネルギー省科学局のOffice of Basic Energy Sciencesの助成金DE-SC0001087)に深く感謝いたします。
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参考文献
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