
塗料は、(1)鉛、クロム、カドミウムといった重金属を含むことがある、色を加えるための顔料、(2)塗料顔料を結合し、乾燥後コーティングされた表面に残るとともに、塗料に保護特性を付与する結合剤(展色剤)、および(3)顔料と結合剤を溶かして塗布できるようにする石油ベースの溶剤という3つの主な構成要素からなります。エナメルベースの塗料は、そのほとんどがアルキド展色剤を含むマイルドな石油ベースの溶媒を使っているため、乾燥と硬化に長時間を要します。それとは反対に、ラッカーベースの塗料は、乾燥時間を短縮するためにより強い溶媒を必要とします。塗料とコーティングは、刷毛、漬け込み、空気圧スプレー、電着、エアゾール法といった様々な方法の1つで塗布します。菌類の生育を阻止する殺生物剤などの添加剤がこの混合物によく加えられますが、その欠点としてホルムアルデヒドにばく露する可能性があります。
塗装プロセス中に種々の揮発物が環境中に放出されます。EPAの測定によれば、室内塗料(乾燥中)から生じるVOCの濃度は屋外でのそれの1,000倍にもなることがあります。屋外ではVOCがすぐにかつ容易に蒸発して周囲の空気に消える傾向があるのに対して、塗装対象の表面積が一般に大きく屋内では利用できる換気能力に限りがあるため、蒸気は人がいる空間にすぐに入ります。また、塗料から室内に放出される蒸気は、長ければ6カ月も続くことがあります。
塗料からの放出物は大気中のオゾンガス濃度を上げることが知られており、それに比例して喘息、またはその他の上部呼吸器疾患とがん患者の報告件数が増えます。
日常的に塗装やコーティングを行う工業労働者は、平均的な作業日に300を超えるVOCにばく露する可能性があります。カリフォルニア州は、スモッグを発生させる排出物と公衆衛生への脅威を軽減するために、高排出塗料溶媒とシンナーを禁止しました。この指令は2013年12月13日に発効しました。
塗装コーティング業界では、自動車、商業ビル建設、住宅建設、塗料製造を含む幅広い業種にわたって世界中で数百万人の労働者が雇用されていると見積もられています。
塗料の組成
顔料は天然型と合成型のいずれかに分類できます。天然型顔料には種々の粘土、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、タルクなどがあり、合成型顔料には人工分子、焼成粘土、沈殿炭酸カルシウム、合成シリカなどがあります。UV保護と不透明化のためによく使用されるその他の顔料には、二酸化チタン、フタロブルー、および赤色酸化鉄があります。鉛ベースの顔料など、有毒なものもあります。
結合剤には、アクリル、ポリウレタン(イソシアネートを含む)、ポリエステル、メラミン樹脂、エポキシ、または油脂を含む合成樹脂や天然樹脂などがあります。
溶媒塗料に最も広く使用される芳香族炭化水素溶媒は、ベンゼン、トルエン、混合キシレン、エチルベンゼン(BTEX)、および高引火点芳香族ナフサです。脂肪族炭化水素にはヘキサン、ヘプタン、VM&Pナフサが含まれます。
対象汚染物質:
ホルムアルデヒド
オゾン
芳香族炭化水素溶媒―ベンゼン、トルエン、キシレン、BTEX、芳香族ナフサ
脂肪族炭化水素溶媒―ナフサ、ミネラルスピリッツ、テルペン
含酸素溶媒―ケトン(MEK)、エステル、グリコールエーテル、アルコール
イソシアネートおよびジイソシアネート(結合剤)
鉛、カドミウム、およびクロム化合物(顔料)
ホルムアルデヒド
ホルムアルデヒドは一般的な室内大気汚染物質であり、無色で強い独特な匂いを持つVOCです。カーペット、フローリング、家具、および日常使うプラスチックの中に含まれています。医薬用防腐剤、接着剤、パーティクルボード、コーティング、紙、塗料、発泡体などにも見られます。ホルムアルデヒドの蒸気を吸い込むか、または皮膚を通して吸着(液体状)することによってばく露することがあります。ホルムアルデヒドにばく露すると、涙目、目の炎症と疲れ、鼻詰まり、および皮膚の発疹が起こることがあります。また、頭痛とインフルエンザ様の症状を起こすことも知られています。慢性的にばく露すると気管支炎になることがあります。ホルムアルデヒドは喘息のようなその他の病気のきっかけになったり、アレルゲンのように作用したりします。
ホルムアルデヒドを排出する殺生物剤を含有する塗料もあります。ホルムアルデヒドはEPAが規制するVOCの1つです。OSHAはホルムアルデヒドを既知の発がん物質として規制しています。ホルムアルデヒドは、医療 (病院および獣医医療)などその他の様々な産業、ラボ環境にいる先生と学生、建設労働者の他、パルプ、紙、自動車、および海運業界でも懸念材料になっています。ホルムアルデヒドは、蒸気侵入、シックハウス、および建物関係の病気の場合に調査される一般的な汚染物質です。
オゾン
オゾンは大気中のどこにでも存在します。私たちは、地球を持続し、太陽の有害な紫外線から私たちを守るために「オゾン」を必要とします。高度(成層圏)の大気中にオゾンが多くあると保護効果を発揮しますが、低度(対流圏)ではVOCと反応して屋外環境にスモッグを生成します。多くの場合、屋外のオゾンは室内のオゾン濃度が上昇する原因になります。室内のオゾンは、室内のVOCと反応して毒素を形成するので大きな懸念になっています。皮膚上の化学物質と反応することも疑われています。また、呼吸器系に影響を与え、喘息などの病気の原因になることもあります。
米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)は、高濃度のオゾンによって呼吸器系に以下の悪影響があるとの懸念を抱いています。
- 呼吸器系の炎症によって咳と喉および胸に炎症が起きる
- 肺機能が低下して呼吸が浅く、苦しくなる
- 肺粘膜の炎症と一時的な損傷を引き起こす
合成高分子を含有することが多い結合剤の組成によっては、大気汚染が塗料とその関連材料に損傷をもたらすことが知られています。光化学的酸化剤であるオゾンは、これらの高分子と反応してそれらを劣化させます。そのため、さらに頻繁な塗装が必要になり、メーカーやエンドユーザーのコストが上昇して大気汚染もさらにひどくなります。
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