DDS向けポリマーソーム
はじめに
人体内部の特定の場所を標的にする薬物の開発は、現在の生物医学に残されている最大の課題の1つです。現在投与されている大多数の薬物は、特定の組織または細胞を標的にする手段がありません。健全な細胞に対する非特異的な薬効は、重篤な副作用を引き起こし、患者の生活の質を劇的に悪化させる場合があります。例えば、化学療法は、脱毛、消化管内壁の損失、潰瘍化、吐き気などの重い副作用をもたらすことが多くあります。特異的な薬物標的化により副作用を軽減または排除できる可能性があり、治療有効性を改善して生活の質を向上しながら必要な投与量を減らしてコストを抑えられる可能性があります。現代的な薬物送達の方法では選択性が改善されていますが、薬物が分解する、生物学的利用能が低い、循環時間が限定的といった問題が残されています。理想的なドラッグデリバリーシステム(薬物送達システム、DDS)は、安定性、体内の特定の部位に対する標的化、標的部位へ送達された際の制御された放出を備えている必要があります。
ポリマーソームは、水性のコアとその周囲のポリマー二重層膜で構成されたコロイドサイズの中空球で、次世代ドラッグデリバリーシステムの有望な候補です(図1)。ポリマーソームは自然から着想を得たもので、すべての生きた細胞に存在するリポソームの合成類似体です。両親媒性分子の自己組織化によって形成されるポリマーソームは、親水性分子(ポリマーソームの水性コア内に担持)、疎水性分子(膜二重層内に担持)、または両者の組合せを輸送する能力があり、単独の薬物よりも治療作用を高めることができます(図1)1。ポリマーソームは、高い強靭性や低い膜浸透性2といった特長があり、(適切に設計した場合は)免疫原性をほとんど持ちません3。これらのブロックコポリマー担体は、特定の細胞受容体に対するリガンド(タンパク質、炭水化物、低分子など)で表面を修飾することで、標的ドラッグデリバリーを実現することができます。ポリマーソームのカプセル内からの薬物放出の制御は、刺激応答性の化学的手段を組み込むことで達成できます。これらの利点を受けて、ポリマーソームは薬物送達3,4、遺伝子およびタンパク質送達5、イメージング法6、診断7などの多様な生物医学用途で広く研究されています。本稿では、特にDDS向けのポリマーソームを中心に紹介します。
ポリマーソームの合成に関する議論に続いて、ポリマーソーム標的化を実現するための表面修飾と、薬物放出の制御のための動的または刺激応答性の化学的手段の組込みについて概説します。

図1DDS向けポリマーソームの利点を示した概略図。ポリマーソーム表面を、炭水化物、タンパク質、低分子で修飾することで、体内の特定の場所に対してポリマーソームを標的化することができます(左上の囲み)。刺激応答性の薬物放出(右上の囲み)により、ポリマーソームのコアに担持した親水性薬物分子(右下の囲み)およびポリマーソームの膜二重層に担持した疎水性薬物分子(左下の囲み)の薬物送達の制御が可能になります。
ポリマーソームの作製方法:設計、合成および薬物カプセル化
ニトロキシドを介した重合(NMP:nitroxide-mediated polymerization)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT:reversible addition-fragmentation chain transfer polymerisation)、原子移動ラジカル重合(ATRP:atom-transfer radical polymerisation)などの精密ラジカル重合(CRP:controlled radical polymerization)法が開発されたことで、よく制御された両親媒性ポリマー(例えばPS-b-PAA、図2A)の合成が可能になっています。CRPにより、精密な分子量、低多分散度(Đ)、特定の構造を持つポリマーを合成することができます。例として、ブロックコポリマー(BCP:block copolymer)、トリブロックコポリマー、グラフトポリマーなどがあります。CRPによって多様な両親媒性ポリマーが合成されており、球/ミセル、円筒、ポリマーソームのような興味深い構造に自己組織化することが示されています8。

図2代表的なRAFT重合によるBCPの合成、BCPのポリマーソームへの自己組織化、および架橋によるポリマーソームの安定化。A)ポリスチレン(PS)の疎水性ブロックがRAFT重合によって作られます。ここからポリ(アクリル酸)(PAA)の親水性ブロックを成長させます。PS-b-PAA BCPの自己組織化によりポリマーソームカプセルが得られます。B)架橋を利用してポリマーソームの安定性を向上することができます。ここではポリ(アクリル酸) 鎖間のアミドの形成で示されています。
溶液中でのBCPの自己組織化は、充填パラメータ(p)に支配されます。充填パラメータは、疎水性鎖の体積(v)、界面における分子あたりの面積(a)、疎水性鎖の長さ(l)を考慮して、自己組織化によってどのような構造が形成されるかを示すために使用できます(式1)。構造によって対応するpの値の範囲が異なり、p < 1/3の場合は球状構造、1/3 < p < 1/2では円筒、1/2 < p < 1ではポリマーソームが形成されます。

式1両親媒性BCPの充填パラメータ
通常、ポリマーソームの合成では、両親媒性ポリマーを含む溶液に選択溶媒をゆっくりと加えます。溶媒の性質の変化に伴い、望ましくない溶媒‐ポリマー相互作用を最小限にするため、両親媒性ポリマーが自己組織化します。ポリマーソームの調製および特性評価のため、複数の方法が開発されています8。
ポリマーソームの集合および安定性は非共有結合性の力のみに支配されているため、これらの超分子構造は本質的に不安定であり、血液中のように大幅に希釈される領域に導入するとさらに不安定になります。ポリマーソームの安定性は、疎水性コア、親水性シェル、またはコア‐シェル界面を共有結合的に架橋することで改善できます。アミド、ジスルフィド、UV照射、カルボジイミドカップリングなどの多様な化学的方法を使用した架橋が報告されています。これらの架橋やポリマーソームのその他の架橋法については、以前に概説されています3,4。
ポリマーソームは、薬物担持量が大きく、疎水性分子と親水性分子の両方を担持する能力があるため、ドラッグデリバリー用途において大きな関心を集めています。疎水性分子は非水性の膜二重層に融合し、親水性分子は水性のコア内部に捕捉されます。様々な疎水性分子と親水性分子をポリマーソームへ充填することに成功しています3,4。具体的な例として、膜タンパク質、疎水性薬物(例:パクリタキセル)、疎水性分子(例:カンプトテシン)、親水性薬物(例:ドキソルビシン塩酸塩(DOX HCl))などが挙げられます。疎水性分子と親水性分子の両方を同時に担持できるポリマーソームの能力を利用することで、単独の薬物と比較して遥かに大きな治療効果が得られる場合も多くあります。Thambiらによる報告では、トリブロックコポリマーのPEG-b-PLys-SS-PCLで構成された酸化還元応答性ポリマーソームの合成について記述しており、DOX HCl(水性コア内)およびカンプトテシン(膜二重層内)の担持に成功しています。二重薬物担持ポリマーソームを使用した場合、いずれかの薬物を単独で単回投与した場合と比較して、細胞傷害性が高まることが報告されています1。
一般に、ポリマーソームからの薬物放出は、濃度勾配による受動的な拡散で起こります。この拡散速度は、二重層膜の厚さの調整、共有結合性の架橋、および両親媒性ポリマーの組成の制御によって調節できます。非特異的な薬物放出に伴う複数の問題を克服するため、標的の場所で制御した薬物送達を実現する多数の刺激応答性ポリマーソームが開発されています。
標的ドラッグデリバリーのための修飾
標的ドラッグデリバリーのためには、ポリマーソーム表面を特定の標的化基および/またはリガンドで修飾します。標的化リガンドとして多様な分子が研究されています(表1)。
標的化分子のポリマーソーム表面へのコンジュゲーションは2つの方法で行われます。第一の方法では、ポリマーソームの形成後に、ポリマーソーム表面に存在する活性基に標的化リガンドをコンジュゲーションします(図3A)。第二の方法では、ポリマーソームの形成前に、両親媒性ポリマーに標的化リガンドをコンジュゲーションします。その後、修飾したポリマーを組織化させ、表面に標的化リガンドを持つポリマーソームが最終的に形成されます(図3B)。低分子やペプチドの場合はどちらの方法も実行可能ですが、多糖類やタンパク質などのより大きな分子は、コポリマー分子が自己組織化してポリマーソームを形成するのを妨害する場合があるため、ポリマーソームの形成後に組み込まなければなりません。

図3標的化基をポリマーソーム表面に組み込む方法。A)ポリマーソームの形成後、ポリマーソーム表面に存在する反応基に標的化基を付加することができます。この方法について、ここではアルキンで修飾した標的化基をポリマーソーム表面に存在するアジド基にコンジュゲーションする例が示されています。B)もう1つの方法では、ポリマーソームの形成前に両親媒性ポリマーに標的化基をコンジュゲーションします。その後、修飾されたポリマーが自己組織化し、表面に標的化リガンドを提示するポリマーソームが最終的に形成されます。この方法について、ここではブロックコポリマーに糖分子をコンジュゲーションした後、表面に糖基を提示するポリマーソームに自己組織化させる例が示されています。
クリックケミストリーを使用して、予め形成したポリマーソームにリガンドをコンジュゲーションする複数の試みが行われています20,21。クリック反応は効率と直交性が高いため、表面を高度に修飾できる有効な方法です。例として、van Hestらは、アジド修飾両親媒性ポリスチレン‐block‐ポリ(アクリル酸)(PS-b-PAA-N3)コポリマーで構成されるポリマーソームを合成しています20。次に、銅触媒を用いるアジド‐アルキン環化付加(CuAAC:copper-catalyzed azide-alkyne)反応でアルキルを含む蛍光ダンシル(dansyl)プローブおよび/またはビオチンをポリマーソーム表面に結合させることにより、効果的な表面修飾を可能にしています20。また、MartinらもCuAAC反応を用いて、樹枝状および非樹枝状のアルキン修飾マンノース誘導体を、アジド修飾ポリ(ブタジエン-block-エチレンオキシド-N3)BCPで構成されるポリマーソームにコンジュゲーションしています21。非樹枝状誘導体と比較して、樹枝状誘導体はコンカナバリンAに対する結合親和性が2倍高いことが示されています21。
上述したように、ポリマーソームの形成前に標的化リガンドを両親媒性BCPの末端にグラフトすることができます。修飾されたBCPと修飾されていないBCPの比率を制御できるため、最終的なポリマーソーム集合体における標的化リガンドの表面密度も容易に調節できます。これは、表面修飾の割合を制御するのが遥かに困難なポリマーソーム形成後の修飾に対して利点となります。Kimらは、ポリマーソーム形成前の修飾を利用して、マンノースで修飾したテトラ(p-フェニレン)-block-PEGコポリマーで大腸菌を標的にすることに成功しました。自己組織化したこのポリマーソームは、修飾されていないポリマーソームと比較して、大腸菌の線毛に対して800倍高い結合親和性を示すことが報告されています22。
活性薬物を腫瘍部位に対して標的化して化学療法の有効性を向上することに多大な努力が払われています。ポリマーソームは、中枢神経系(CNS:central nervous system)、脳、蝸牛、マクロファージなどの体内の異なる部位を標的にするために使用されて成功を収めています(図4)8。乳がん細胞、前立腺がん細胞、大腸がん細胞、肺がん細胞などのヒトがん細胞株では、特定の細胞表面受容体が過剰発現しています3,8。この過剰発現は、特異的に結合するリガンドをポリマーソーム表面にコンジュゲーションすることでポリマーソームを標的化するために利用できます。また、多くのがんでは特定の酵素が過剰発現します。酵素で切断可能な官能基でポリマーブロック間を結合したブロックコポリマーを慎重に設計することで、ポリマーソームが標的の細胞に進入すると特定の薬物を放出するようにできます。Jungらは、メトキシポリエチレングリコールとポリ(D,L-ラクチド)のジブロックコポリマーから、がん細胞に存在するリソソーム酵素で切断可能なGly-Phe-Leu-Gly-Phe(GFLGF)配列で結合された生分解性ポリマーソームを開発しました14。抗体介在性エンドサイトーシスの後、得られたポリマー(mPEG-GFLGF-PDLLA)のペプチド配列が切断され、ポリマーソームが溶解すると同時に薬物が放出されます。

図4修飾されたポリマーソームが診断および治療用途で使用されています。多様な臓器への標的ドラッグデリバリーは、それぞれCNS、脳、がん細胞、蝸牛、マクロファージで検出される神経変性疾患、がん治療、感音難聴、感染および炎症に関する研究において、非常に注目されています。
ポリマーソームが特定の場所に対して標的化された後、治療効果を得るためにはカプセル化された薬物が放出されなければなりません。薬物放出の制御は、ポリマーソーム構造に刺激応答性の化学構造を組み込むことで実現できます。
刺激応答性薬物放出
動的または応答性の多様な化学構造をポリマーの構成単位に組み込むことで、様々な種類の刺激を加えたときにポリマーソームが内包物を放出するように設計することが可能になります。標的の場所で薬物放出を引き起こすことができれば、優れた薬効を得ると同時に望ましくない副作用を最小限に抑えることが可能になります。一般的なポリマーソームからの刺激応答性薬物放出を実現する機構としては、以下が挙げられます。ポリマーブロックをつなぐ刺激応答性基の開裂(図5、赤)、ポリマーブロック内のモノマー単位をつなぐ結合の分解(図5、青)、ポリマーブロックの1つが静電的に変化することによる疎水性状態から親水性状態への遷移(図5、緑)の3つです。これら3つの機構すべてでポリマーソームの溶解または分解が起こり、内包物が放出されます。

図5ポリマーブロックの切断(赤)、ポリマーの分解(青)、静電的変化(緑)によるポリマーソームの分解/溶解。
ポリマーソームからの薬物放出を実現する刺激としては、pH、酸化還元、活性酸素種またはグルコースとの反応や、磁場、超音波、光のような外部刺激を加えるなどの多数の例が報告されています。刺激応答性ポリマーソームの合成および用途については、最近の総説で記述されています3,4。最も研究されているのは、pH、酸化還元電位、光の3つの刺激です。これらのうち2つは自然に起きる生理学的勾配(pHおよび酸化還元電位)を利用するもので、もう1つでは外部から刺激(光)を加えます。
pH勾配は体内で自然に発生するため、pH応答性ポリマーソームの開発は強い関心を集めています。生理学的pHはpH 7.4前後に保たれていますが、炎症組織および腫瘍組織(pH 6.5~7.2)や、リソソームおよびエンドソームの内部(pH 4.5~ 5.5)は低pH環境になります。そのため、両親媒性ポリマーにpH応答性またはイオン化可能な結合を組み込むことで、ポリマーソームの分解および薬物放出を容易に実現することができます。
最も初期に開発されたpH応答性ポリマーソームとしては、ポリ乳酸(PLA)やポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)のような加水分解性ポリエステルで構成された疎水性ブロックを持つブロックコポリマーがあげられます23。ポリマーソームの溶解(および薬物放出)が、ポリマーブロックをつなぐエステル結合の加水分解によって起きます。DOXおよびパクリタキセルを担持したPEG-b-PCLおよびPEG-b-PLAポリマーソームは、マウスの腫瘍組織に局在化し、カプセル化された内包物を酸性の腫瘍環境に進入した際に放出して、腫瘍の成長停止や縮小を引き起こすことが示されています24。
ポリマーソーム担体からのpH刺激によるドラッグデリバリーを行う別の方法として、イミン、ヒドラゾン、アセタールなどのpH応答性の結合でポリマーブロックをつなぐ方法があります4。酸性条件に晒されると親水性ブロックと疎水性ブロックの間の結合が分解し、ポリマーソームの分解およびカプセル化された内包物の放出が起こります。
また、pHで誘起するポリマーソームの分解は、ポリマーブロックの1つにイオン化可能な基を組み込むことでも実現できます。例として、双性イオン性のポリ(2-(メタクリロイルオキシ)エチルホスホリルコリン)-b-ポリ(メタクリル酸2-(ジイソプロピルアミノ)エチル)(PMPC-b-PDPA)ブロックコポリマーがArmesらによって調製されています25。このPMPC-b-PDPAポリマーソームは生理学的pHでは安定ですが、酸性条件下では分解するように設計されています。分解はPDPAの3級アミン基のプロトン化によって起こります。PDPAはプロトン化前は疎水性ですが、プロトン化後は親水性になるため、ポリマーソームが溶解します。PDPA内のアンモニウムのpKaは6.3程度であり、生理学的pH(7.4)の血液中では疎水性を維持できるためにポリマーソームは安定ですが、リソソームやエンドソームでみられる酸性条件下では親水性になるために分解します。
酸化還元電位は、正常な組織と腫瘍組織の間、細胞内環境と細胞外環境の間、異なる細胞小器官の間でも大幅に変化するため、酸化還元活性ポリマーは標的ドラッグデリバリーに適した多用途性のあるプラットフォームになります。重要な細胞還元剤であるグルタチオン(GSH)は、ポリマーソームを分解する応答性結合の還元を引き起こすためによく使用されています。通常、血漿および正常な組織でGSH濃度は非常に低い(2~20 µM)のに対して、サイトゾル、核、腫瘍組織では大幅に高くなる(2~20 mM)ため、細胞内で大きな酸化還元勾配が生じます。ジスルフィド(-S-S-)結合はGSHによって還元され、2個のチオール(-SH)基を生成します。この過程を標的ドラッグデリバリーに利用するために、PEG-MA-b-PCL-S-S-PCL-b-PEG-MAトリブロックコポリマーの合成26や、PEG-b-PLys-b-PCLポリマーソームの化学架橋27において、ポリマーソームのポリマー骨格にジスルフィド結合が組み込まれています。GSHによる還元とその後のジスルフィド結合の開裂によりポリマーソームが分解し、カプセル化された内包物が放出されます。
光は時間的および空間的に高度な制御が可能で、非侵襲的な方法を使用するため、薬物放出を引き起こす手段として魅力的です。光によるポリマーソームからの薬物放出の誘発は、ポリマーソームの構造変化か光照射によるポリマーの劣化で実現されます。スピロピラン、2-ニトロフェニルアラニン、o-ニトロベンジルなどの多様な感光性基がポリマーソームに導入されており、Huらが概説しています4。
結論
ポリマーソームはその特有な性質のため、DDS用途において非常に有望な材料になっています。ポリマーソームの設計および作製において考慮すべき点を、特に薬物カプセル化の方法を中心に要約しました。能動的標的化および薬物放出の制御にポリマーソーム表面を修飾できることで、このナノ材料に多用途性をもたらしています。
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参考文献
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