Starbons®:ナノ構造メソポーラス材料の作製
Green Chemistry Centre, Department of Chemistry,
University of York, Heslington,
York YO10 5DD, UK
はじめに
メソポーラス材料は、直径2~50 nmの細孔を有する材料です。中でもメソポーラス「炭素質」材料については、表面化学および細孔サイズ分布を正確に制御するための方法が研究され、特に、クロマトグラフィー1および触媒2,3などへの応用で不利となる、ミクロポーラスの形成を最小限に抑える方法が開発されています。その1つの方法として、テンプレート法があります。一般的な手順としては4、メソポーラスシリカに炭素前駆体(たとえば、スクロース)を充填し、次にこれを一連の高温プロセスにより炭素化します。その後、フッ化水素酸または苛性ソーダ(NaOH)を用いてテンプレートを除去します。しかしこの方法は、反応ステップが多く、エネルギー集約的であり、さらに腐食性の強い化学物質を用いており、生成物には高い比率でミクロポーラスが形成されます。そこで自然界をヒントに合成法を検討してみました。たとえば、デンプンはテンプレートとして利用可能な天然のナノチャネルを持つ生体高分子構造を持っています。デンプンは水中で加熱するとその内部構造を開き、修飾しやすいメソポーラスネットワーク構造を形成します。これは、植物のデンプン顆粒の中で、ナノチャネルをもつバイオポリマー構造体を形成する天然の力を利用したものです5,6。低温で、酸と加熱による処理をさらに進めると、膨張したデンプンのテンプレートは安定したナノ構造の炭素質メソポーラスネットワーク構造に変化することが明らかになりました。ナノ構造を持つ制御可能な物理化学的特性を備えた新規炭素ベース材料を作製するこの方法により、「Starbon®」と呼ばれる新しい材料カテゴリーが生まれました7-9。Starbon®は、その表面分子構造が複雑であることから、クロマトグラフィー、触媒、環境修復などのさまざまな応用分野で利用することができ、また最近では、ナノ粒子の作製にも用いられています。
Starbon®の合成
我々の基本的な合成方法は、前駆体としてメソポーラス膨張デンプンを用いることで、テンプレート剤を使わずにメソポーラス炭素質材料(以下、Starbon®)を合成することです7-9。Starbon®合成には、デンプン内部のアミロースおよびアミロペクチンポリマー鎖に備わった天然の力、すなわちデンプン自体を組織化された大きなメソポーラス構造体に組み立てる性質を利用します。この方法には3つの重要な段階があります(図1)。まず、デンプン(通常トウモロコシ由来)を水中で加熱してゼラチン状にし、その後5℃に冷却して1~2日間静置すると、多孔質ゲルの塊を得ることができます。次に、そのゲルの中の水をエタノールで交換し、これを乾燥炉で乾燥させると、通常は180 m2g-1の表面積を持つ、メソポーラス構造が優勢なデンプンになります10,11。最後に、このメソポーラスデンプンに触媒量の有機酸(たとえば、p-トルエンスルホン酸)を加えて、真空中で加熱します12。加熱温度を100~1400℃の範囲で変えることにより、表面およびバルク特性を制御することのできる、さまざまな種類のメソポーラス炭素質材料の作製が可能です。図1に示すように、これらの材料には、粉末状のものもあれば安定した単一の形状のものもあります。

図1Starbon®の合成方法
Starbon®の特性
Starbon®の多孔質構造は膨張したデンプンに由来するものであり、これまでのメソポーラス炭素の合成に用いられているミセルをテンプレートとしたポリマー方式で起きるミセルのつぶれの問題を解決し13、構造を規定するためのシリカのようなメソポーラステンプレートを合成する必要がなくなります。Starbon®および元のメソポーラスデンプンのSEM写真が示すように、熱分解後もサンプル粒子の構造形態はよく保持されています(図2)。

図21)膨張したメソポーラスデンプンの構造特性。a)SEM、b)吸脱着等温線、c)BJH法による細孔分布曲線。2)400℃で作製されたStarbon®の構造特性。a)SEM、b)吸脱着等温線、c)BJH法による細孔分布曲線
全細孔容積およびメソポーラス領域の平均細孔径は、炭化プロセスを通じて基本的には一定に保たれます。メソポーラス領域の平均細孔径は、約10 nmであり、これはStarbon®構造中ではメソ孔が主体であることを示しています。炭化により全表面積に占めるミクロポーラス領域の寄与は著しく増加しますが、実際の容積は、全細孔容積と比較して小さいことが分かります(表1)。Starbon®はこれらの構造特性のために、触媒やクロマトグラフィーのような応用に特に適したものになっています。

表1でんぷん、各種Starbon®の物理分析
Dubinin-Astachov法によって測定された表面エネルギー、Esurface(EDA)は、合成温度の上昇に伴って全般的に増加傾向を示しています。約150℃まではデンプンの特性がよく保持され、これより高温になると、次第に炭素の特徴を示す物質へ変化します9,14。X線光電子分光法(XPS:X-ray photoelectron spectroscopy)でも、これを裏付ける結果が得られており、表面での炭素/酸素比が、膨張したデンプンの1.2から、800℃で調製されたStarbon®の8.5まで、ほぼ線形に増加しているのがわかります(表1)。
材料の表面分析(XPS)と比べて、バルク分析(元素分析)の方が炭素/酸素比はいくらか小さくなりますが、元素分析にも炭化傾向が反映されています。このことは、炭化プロセスのメカニズムが外表面から始まり、その後、材料の内部バルクに至ることを示唆しています。
炭素的な特性が大きくなると、熱安定性が高まります。熱重量分析によると、加熱時のStarbon®の分解の程度が、デンプンより低いことがわかります(デンプンおよび450℃で調製したStarbon®の重量減少は、それぞれ90%および23%です)。同じ条件下では、低温で合成したStarbon®はデンプンより早く分解し始めますが、熱安定性および分解開始温度は、炭素特性が増すにつれて上昇し、最終的にデンプンの値を超えます。
Starbon®を合成する際に起きる化学組成の変化も分析しました。材料の固体13C CP/MAS(cross-polarization/magic anglespinning、交差分極/マジック角回転)NMRスペクトルは、デンプンからStarbon®に移行する間に3つの主な化学変化が生じることを示しています。第一段階(150~200℃)で、デンプン中の-CH2OH基の一部が縮合してエーテル基が形成されます。第二段階(200~300℃)では、デンプン中の残りの-CH2OH基が縮合して、オレフィン基と共役結合したカルボニル基になり、脂肪族およびアルケン/芳香族の官能基を形成します。第三段階(>300℃)で、脂肪族基は、ほぼ完全に芳香族π電子系官能基に変換されます。拡散反射FTIR(DRIFT)分光法によって、-CH2OH基の濃度が次第に低下して、脂肪族性が増加し、最終的には芳香族性が増加することが確認されています15。このStarbon®への変化は、以前に報告された通常のデンプンを用いた場合と類似の変化を示しますが、各段階の変化は、かなり低い温度で生じます16。
TGA、13C MAS NMR、DRIFTおよびXPS分光法によって測定したStarbon®の特性を図3に要約します。デンプンから700℃を超えて得られるグラファイト状構造体に至るまでに、存在する官能基の疎水性が徐々に増加していることがわかります。

図3調製温度がStarbon®表面の官能性に与える影響
100~700℃の温度領域で調製されたStarbon®も、化学的改質により物理的、化学的特性を変えられる可能性があることに注目しなければなりません。13C MAS NMRおよびDRIFT分光法によって得られたデータから、デンプンおよび炭素の両方に典型的な官能基が存在することが示されています。これは、この材料の化学的修飾に、炭素質材料に適した方法(たとえば、臭素化、アミノ化など)17だけではなく、デンプン10に対して適用できる方法(たとえば、シリル化、アルキル化、エステル化、エーテル化など)も用いることができる可能性があるということを意味しており、将来的に新規ハイブリッド材料の作製への応用が期待されています。
Starbon®の応用
デンプンの分解メカニズムに関する知見から、特定のアプリケーションへの利用のためにStarbon®を調製する際の最適温度を予測することができます。250℃まではStarbon®中にデンプンの官能性が残るので、鏡像異性体のクロマトグラフ分離のようなデンプンに特有の応用例18が、Starbon®でも可能になります。予備的研究では、液体クロマトグラフィーに対する固定相として有効であり、置換フェロセン化合物の標準試験混合物を分離するのに使用できることがわかっています。
最近、低温で調製されたスルホン化芳香族炭素質材料が効率的な固体酸触媒であることが見いだされました。300~600℃の温度で調製されたStarbon®は芳香族性を有しているので、この材料をスルホン化することによっても、有用な固体酸材料が得られます。特に、アルコール水溶液中の二価カルボン酸の反応において、高い活性度とStarbon®酸特有の性質が得られることがわかりました19,20。水中での二価有機酸のエステル化反応を選んだ理由は、以下の3点です。まず第一に、(ジ)カルボン酸は近い将来、バイオマス(生物系有機資源)を利用した新たな仕組みにおいて、バイオ‐プラットフォーム分子(構成要素、building block)として汎用化学物質やスペシャリティケミカル(機能性材料)の大量生産に用いられると予想されます。第二に、ポリマーや燃料添加剤、溶剤などの製造においてジエステルを中間体として使用することができるため、エステル化は有機酸、特にジカルボン酸の最も有用な変換の1つです。第三に、伝統的なエステル化方式は非選択的であり、かつ、可溶性無機酸を使用するため、反応後にこれを分離する必要があり、有害な廃棄物が発生します。
異なる温度で調製されたStarbon®をベースとしたStarbon®酸は、エステル化した二価酸のそれぞれに対して最適な触媒活性度を持ち、温度が少し異なるだけで、活性度は急激に低下することがわかりました。Starbon®酸の最も興味深い特徴は、おそらく、最高触媒活性度温度が化合物によって変化することです(図4)。すなわち、コハク酸は約400℃、フマル酸は450℃、イタコン酸は550℃で活性度が最高になります。

図4A)コハク酸、フマル酸およびイタコン酸のエステル化における、元になったStarbon®の調製温度に対するStarbon®酸の触媒活性度(値は標準化してあります)。最大触媒活性度:コハク酸(400℃、k = 32 x 10-5 s-1);フマル酸(450℃、k = 5.0 x 10-5 s-1);イタコン酸(550℃、k = 15.4 x 10-5 s-1)。B)典型的な無機固体触媒と比較した、コハク酸エステル化反応におけるStarbon®酸の活性度。C)硫酸触媒担体と比較した、コハク酸エステル化反応におけるStarbon®酸の活性度。
Starbon®はこの他に、貴金属触媒の固体担体にも応用されます。Starbon®上に担持されたパラジウム金属が、ヨードベンゼンとメチルアクリラートとの典型的なHeck反応における高活性触媒であることがわかりました。この場合も、材料の表面化学の制御が重要であるのは明らかであり、220℃で調製されたStarbon®が、最も高効率であることが見出されています。
謝辞
この研究はEPSRCによる資金の助成を受けています。また、平素より有益な議論をしているYork Clean Technology Centreのメンバーに感謝いたします。。試料分析では、Mr. P. ElliottおよびMs. M. Starkの協力を得ると共に、技術的なアドバイスも頂きました。ここに感謝いたします
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参考文献
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