有機太陽電池用非フラーレンアクセプター
François Grenier, Amélie Robitaille,
Brilliant Matters Organic Electronics Inc.
有機太陽電池
有機太陽電池(OPV:organic photovoltaic)は、低コストの太陽光発電として非常に期待されている技術です。OPVデバイスは、軽量でフレキシブルなプラスチック基板に、高スループットで大量に印刷する方法を用いて製造できるため、容易に導入し、革新的な方法で使用することが可能です。例えば、建物や窓に組み込むことで建築デザインとして使用したり、ウェアラブル用途に利用することができます。
ただし、OPVデバイスのエネルギー変換効率(PCE:power conversion efficiency)を、すでに確立された量産型太陽電池と同等の値にいかに高めるかが大きな課題です(例:多結晶シリコンの場合、実験室レベルの効率は22.3%)1。 最近まで、OPVに使用される最も高効率の半導体は、p型ポリマー(例:PTB7-Th、PBDB-T、PffBT4T-2OD)と、n型フラーレン誘導体(PC61BM、PC71BM、ICBAなど)との組合せでした2。これらの化合物で約11%のPCEが可能ですが、この値はポリマー/フラーレン単層OPVデバイスの理論的限界に近いと考えられています3。
パラダイムシフト
幸いなことに、最近の発見によりPCE性能の限界が克服されたことで、有機太陽電池は新しい太陽エネルギー技術の有力な候補になっています。新しいタイプのn型分子材料により、単接合デバイスのPCEは16%まで向上しています4,19。「非フラーレンアクセプター」(NFA:non-fullerene acceptor)と広く呼ばれるこれらの新材料は、フラーレンアクセプターと比較して次のような利点を示します。
- 高い吸光係数による光電流の増加
- 無放射エネルギー損失の抑制による電池電圧の向上5
- 高いデバイス光安定性6,20
現在、NFA系OPVデバイスに関する理論的な推定はより楽観的であり、ポリマー/NFAバルクヘテロ接合を最適化することで、19%を超える効率が現実的に達成できると考えられています5。
新しい分子設計
高性能非フラーレンアクセプターの大部分は、フラーレンやその他材料の性能を上回ることを可能にする共通の分子的特徴を持っています。共役ポリマーでよく見られるように、電子豊富および電子不足の共役系構造の組合せを有するため、バンドギャップが減少し、より広い波長範囲で太陽光スペクトルを吸収します。ただし、共役ポリマーと異なる点として、かさ高い側鎖で電子豊富のコアが遮蔽されているため、電子不足の側鎖のみがp型材料と相互作用できるようになっています(図1を参照)。この手法により、励起子から分離した電荷を得るための駆動力が向上すると考えられています5。その結果、フラーレン誘導体を使用した太陽電池デバイスよりも高電圧が可能になります。 吸光係数および光電流生成の増加と合わせて、NFAは高性能有機太陽電池に最適な新しいn型材料です。

図1高性能非フラーレンアクセプターの代表的な特徴(図は文献より転載)5。1. 密接した分子間π-π重複(分子間電荷輸送チャンネル)2. アルキルで遮蔽された共役系骨格(分子内電荷輸送チャンネル)3. 非遮蔽電子吸引基(ドナーとの電荷移動チャンネル形成のため)
性能最適化のための多用途性プラットフォーム
有機太陽電池における非フラーレンアクセプターの別の利点として、電子特性、光学バンドギャップ、結晶性、溶解性を、化学的修飾により容易に調節することができます。いくつかのクラスの材料は、様々な異なるp型材料と組み合わせることで高性能太陽電池デバイスが得られることが実証されています。その例として、図2に示したITIC7(ITIC、ITIC-F、ITIC-M、ITIC-Cl、ITIC-DM、ITIC-Th)、BTP4,19(Y5またはBTP、Y6またはBTP-4F、Y7またはBTP-4Cl)、IEICO8、IDTBR9(O-IDTBR、EH-IDTBR、IDT-2BR)誘導体などが挙げられます10。

図2高性能非フラーレンアクセプターの例
末端基に置換基を付加することで、NFAの電子特性を微調節することが可能です。例えば、ハロゲンやメチル基の付加によりエネルギー準位およびバンドギャップを増減できるため、電池性能の最大化に有効な方法となります。また、これら置換基はNFAの結晶性にも影響を与え、相分離、ブレンドの形態、デバイス寿命を制御する重要な要因となります6,20。



図3ITIC誘導体の紫外可視スペクトルおよびエネルギー準位ならびにBTPおよびIEICO誘導体のエネルギー準位
有機太陽電池における非フラーレンアクセプターの使用
非フラーレンアクセプターは、フラーレンn型分子と同様の方法を用いて、有機太陽電池デバイスの作製に使用することができます。クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、キシレンなど、バルクヘテロ接合層の堆積に一般的に使用される溶媒と同じ溶媒に溶解することができます。
フラーレン誘導体と同様に、例えば1,8-ジヨードオクタン、1-クロロナフタレンおよびアニスアルデヒドのような高沸点の溶媒添加物を少量使用することで、形態および相分離の最適化について研究が行なわれています。また、例えばo-キシレンとN-メチルピロリドンのような沸点がより低い共溶媒も、NFAとの使用に成功しています。 さらに、溶媒蒸気および熱アニールを用いてデバイス性能の最適化が可能です。ポリマー/NFAブレンドの形態制御に関する詳細な情報は、Gurneyらによるレビューを参照してください11。
応用および市場
非フラーレンアクセプターは印刷可能で多用途性に優れることから、革新的な太陽電池デバイスだけでなく、他の技術にも使用することができます。例えば、ワイドバンドギャップNFA(> 1.75 eV、例:IDT-2BR、PBDB-T-SF、およびPBDB-T-2Cl)は、高い電池電圧が得られ、人工的な光が放射するフォトンの大部分を吸収するため、IoTデバイスに電力を供給する低光量の用途(室内照明)において非常に有望です12。一方、ローバンドギャップ材料(例: Y6またはBTP-4F、Y7またはBTP-4Cl、IEICO-4Cl、およびBT-CIC)は、フォトン吸収が主に近赤外域で起こり、可視スペクトルでの吸光係数が小さいため、半透明の用途(例:窓への組込み)に適しています13。また、建物への組み込みもOPVの重要な市場です。 多様な吸収スペクトル、そしてその結果として異なる色を示すNFAが利用できることは、建築デザインに統合された審美的に優れた太陽電池を作製する際に利点となります。
NFAの用途は有機太陽電池に限定されません。フラーレン誘導体と比較して狭いバンドギャップのため、より高感度のフレキシブルで印刷による近赤外光検出器の作製に非常に適しています14。また、有機薄膜トランジスタの作製にも用いられており15、プリンテッド有機メモリデバイスでの可能性も示されています16。
有機太陽電池の輝く未来
非フラーレンアクセプターの革新的な分子設計は、有機太陽電池技術の性能の限界を克服し、より高効率を達成することを可能にしています。現在、単層デバイスで16%を超えるエネルギー変換効率が達成されており4,19、ポリマー/NFAバルクヘテロ接合構造を使用することで19%を超えるPCEも可能だと予想されています5。これらの材料は、フォトン吸収の向上、エネルギー損失の抑制、優れた多用途性により、デバイス設計の新しい可能性を提供します。 新たな中間層(光学調整層)の追加や17、新規デバイス構造の開発によって18さらに効率が向上し、OPVの研究分野および市場、そして再生可能エネルギー発電全体において、NFAが最も重要な最新イノベーションの1つとなる可能性があります。
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参考文献
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